革の代わりに選ばれた紙?三重県の『擬革紙』(ぎかくし)の魅力に迫る!

なごみ

こんにちは。工芸品アンバサダーのなごみです。
今日は、 「まるで革のような紙・擬革紙(ぎかくし)」の生産者である堀木 茂(ほりき しげる)さんにお話を伺いにきました。よろしくお願いします!

参宮ブランド「擬革紙」の会の堀木です。よろしくお願いします!

堀木さん
なごみ

なんと擬革紙は、堀木さんのご先祖様が江戸時代に開発されたとお聞きしました。そんなワクワクする情報をインタビューして記事にまとめます!ぜひ最後までご覧ください!


この記事では、三重県明和町の伝統的な工芸品である、革のような紙・擬革紙(ぎかくし)の魅力や情報についてまとめています。

 ・革のような紙の擬革紙って?

 ・擬革紙の歴史や技術に興味がある

 ・擬革紙の現代での利用法を知りたい

堀木さんにインタビューした内容をもとに、このような疑問にお答えします。
前半では擬革紙についての基本情報を、それ以降は生産者の想いや現代での活用法について詳しく掘り下げていきます。
記事の最後には擬革紙で作った現代的なアイテムもご紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。
 

1. 擬革紙(ぎかくし)とは?

 

擬革紙とは三重県の指定伝統工芸品の1つで、紙で作られたまるで革のような紙製品のことです。
伊勢和紙を専用の型紙ではさみ、万力を使って絞ることで独特な革のような見た目や手触りを再現しているのが特徴です。

擬革紙の歴史


擬革紙の歴史は古く、江戸時代にまで遡ります。
当時ヨーロッパで金唐革(きんからかわ)という、唐草や花鳥などの模様に金泥を塗った装飾革が大流行していましたが、日本では高額でなかなか手に入らなかったそうです。
そのような時代の中で、1684年に初代堀木忠次郎さん(堀木 茂さんのご先祖様。屋号は三忠だった)が紙で模倣して
革のような紙製品を作ったのが擬革紙の始まりです。


金唐革の製品
なごみ

すごい!300年以上も前に作られたんですね!

初代堀木忠次郎は私の8代前にあたり、彼が擬革紙を開発したと聞いています。

堀木さん

タバコ入れで大バズり!擬革紙の大流行時代


堀木さんのご先祖様が開発された擬革紙は、タバコ入れに加工されたことで日本中に大流行しました。


 

当時は、牛を食べる文化がなく皮革が相当貴重なものだったことや、
伊勢の国でのお伊勢参り(伊勢神宮参拝)に殺傷した皮革を持ち込みにくかったことから、
革のような紙である擬革紙で作られたタバコ入れは日本中で大バズり。
さらに、使い込むほどに柔らかくなる特性や、防水性に優れてタバコの葉っぱが湿りにくい機能性もあり、
飛ぶように売れていったとのことです!

なごみ

『夕立や いせの稲木の煙草入れ ふるなる光る つよいかみなり』
こんな詠も作られるくらい日本全国で有名でした。

江戸の狂歌師 大田蜀山人が詠ったと言われていますね。擬革紙は当時、本当に画期的な技術で、湿気に強い素材として重宝されたんですよ。

堀木さん
なごみ

確かに!擬革紙は紙でできているから調湿性がありますよね!革が貴重だった時代だからこそ擬革紙は受け入れられて、日本中に広まっていったんですね!

当時は凄まじい人気で擬革紙の生産者で大地主になった人もいるほどでした。農閑期には周辺の百姓をアルバイトで雇うほど、生産が追いつかないくらいの需要がありましたね。

堀木さん
 

最盛期には擬革紙を生産する店は100店舗を超えたとお聞きしました。
しかし、そのような時代も長くは続かなかったのです...。

時代の移り変わり。擬革紙の悲しい衰退

 

江戸時代に伊勢の国周辺で発明されて大流行した擬革紙ですが、時代の流れには勝てませんでした。
明治時代に牛肉を食べることが国民の間で習慣化されてから一気に皮革の流通量が増え、擬革紙の需要がしだいに減少していったからです。
擬革紙で生計を立てていた生産者も明治時代に多くの店舗が閉業を迫られて、
最終的に昭和10年に三忠(堀木さんのご先祖様の屋号)が廃業したことで、擬革紙の製造は一旦途絶えました。

なごみ

明治時代の牛肉解禁が擬革紙の未来を左右したんですね...

擬革紙は、簡単に皮革が手に入らないから紙で革を模して作られたものです。耐久性や吸湿性も本物の革と比べられてしまうと辛いですね。なんせ紙ですから。

堀木さん
なごみ

周りが閉業するなか最後まで擬革紙の製造を続けてこられた堀木さんのご先祖様ですが、昭和10年に廃業されたんですね。こんな素晴らしい技術なのに、これで途絶えちゃうの・・・?

2. 擬革紙を支える人たち!途絶えた技術の復活への挑戦

 

昭和10年に最後の擬革紙の生産者が閉業し、一度途絶えてしまった擬革紙の製造技術。
それを現代に復活させたのが、本日インタビューをさせていただいている堀木 茂さんです!

擬革紙の復活への歩み

堀木さんは、擬革紙を開発した初代堀木忠次郎さん(屋号:三忠)の8代後のご子息ですが、
なんとご自身の先祖が擬革紙の製造をしていたことを知らなかったそうです笑
家の中で革のような製品を見かけることはあったようですが、
当時は擬革紙の存在を知らず全く気がついていなかったとお聞きしました!

なごみ

堀木さんはご先祖様が擬革紙を製造されていたと知らなかったんですね!

そうです笑 私は祖父を早くに亡くして、父も擬革紙については私に語らなかったものですから、家業が擬革紙製造をしていたのなんて、全く知らなかったですよ。

堀木さん
なごみ

擬革紙の開発者のご子息でも意外と気づかないものなんですね!


堀木さんが先祖の家業が擬革紙生産だと知ったきっかけは、古文書を見た研究者さんが尋ねてきたからだそうです。

擬革紙は日本で見ることができないくらい希少なものであると研究者さんから伝えられたことで、ご自身の先祖がされていた事業にさらに興味を持たれました。

それからも東京国立博物館や兵庫県立歴史博物館、たばこと塩の博物館、他にも有名な博物館からたくさんの方が堀木さんのもとに当時の擬革紙の見学に来られたそうです。

そのようなことからはじめてご先祖様が作られていた擬革紙の希少さを再認識し、現代でも通用するくらい面白いものだと思ったことから、擬革紙復活に挑戦することを決断。

そこから参宮ブランド「擬革紙」の会の発足につながっております。

 

なごみ

そんなエピソードがあったんですね。
ご先祖様が作られていた擬革紙が希少なものだと知ってどう思われましたか?

普通に家にあったものだったので、びっくりでしたね笑
研究者さんが尋ねて来てくれたから今があるんでしょうね。

堀木さん
なごみ

確かにびっくりですよね笑
擬革紙を復活させるのに不安や迷いはあったのですか?

そうですね。特になかったと思います。
失敗したらそれでいいし、上手くいったらそれでいい。
そんな感じで思っていました。

堀木さん
なごみ

すごい前向きなチャレンジ精神が素敵すぎます!

前職が設備の開発なので、得意分野ということも大きかったです。

堀木さん
なごみ

ここから堀木さんの擬革紙復活へのチャレンジが始まります!



途絶えてしまった擬革紙の生産技術

 

堀木さんはお祖父様やお父様から擬革紙のことを聞かされておらず、
当然その製造方法についても全く知らなかったそうです。
当時の製造方法を記録した写真や擬革紙と材料、ほんの少しのサンプル製品があっただけで、
設計図や作り方を記載した資料はほとんど残っていませんでした。


学者さんから「こんなふうに作っていたのではないか?」という仮説を出してもらい、
数え切れないほどの試行錯誤を経て、やっとの思いで今の生産方法に繋げました。

なごみ

何もわからない状態で復活... 私にはできないよ。

擬革紙を復活させるのには3つの壁がありましたね。何もわからないまま手探り状態で進めていきました。

堀木さん

困難の連続。擬革紙の3つの壁

 

堀木さんがおっしゃるには、擬革紙の復活に3つの大きな壁があったと言います。

【擬革紙復活への壁】
ひとつ目は、擬革紙の型紙作り。
そもそも、擬革紙とは専用の型紙で伊勢和紙をはさみ万力で絞ることで、まるで革のような見た目を再現しますが、
それに必要な型紙の製造方法が全くわかりませんでした。


学者さんからは「擬革紙の製造には必ず型紙を使う」と聞いていましたが、その型紙の製造方法を掴めずにいました。
そんな中、ブレークスルーに繋がったのはなんと洗濯板!
堀木さんのご実家には、長らく放置されていた洗濯板のようなギザギザの波模様がついた木の板がありました。
ふとそれを見た時にピンときて、この板を使って圧縮してみたら型紙が作れたとのこと!

なごみ

なんと!きっかけは洗濯板のような木板なんですね!

実家に置いてあった古い洗濯板のようなギザギザがある板をみて、『これで型紙を作るんだ!』と、ピンときましたね!

堀木さん
 

 

【擬革紙復活への壁】
ふたつ目は、擬革紙のシワの付け方。
これが1番苦労したとのこと。型紙の作り方はわかったけど、それを使ってどのように和紙にシワをつけて、
擬革紙にするのかが分からなかったそうです。


擬革紙によく似たちりめん紙(縮緬しわ加工を施した染め紙)の作り方を取材しても、
このシワ加工の方法だけはトップシークレットで教えてもらえなかったそうです。


しかし、そのあと堀木さんがテレビを見ていると、ちりめん紙の先生がシワつけの実演をする番組がたまたま流れてきました。
直ぐにメモをして連絡をとったところ、なんと絞り方を伝授していただくことができたそうです!

なごみ

運命みたいな話ですね!

たまたまそのチャンネルを見ていたおかげで今がありますから、運命かもしれませんね。
このチャンスを逃すまいとすぐに連絡を取りましたよ。

堀木さん
なごみ

堀木さんの行動力に脱帽です...



 

【擬革紙復活への壁】
3つ目は、擬革紙の色付け方です。
昔は炭を炊いて油で溶いたものを塗っていたそうですが、
海外輸出の際に西洋人がその独特な匂いを受け付けなかったことや、
油を塗ったものを積み重ねると自然発火することもあり、漆を使うようになったそうです。


堀木さんも試してみましたが、漆が体質に合わず顔が真っ赤になって腫れてしまうので、漆塗りは断念したとのこと。
その後、試行錯誤の末に水性の着色料に辿り着き、擬革紙の色付け問題も解決したそうです。


型紙の作り方やシワの付け方、色付け方法などの一度途絶えてしまった技術を、
多くの方に協力してもらい、やっとの思いで現代に復活させることに成功された堀木さんです!

なごみ

3つの壁を突破できたからこそ、今の擬革紙があるんですね!

設計図などがほとんどない状態でスタートして、試行錯誤の連続でしたがなんとか形にすることができました。我ながら良くやったと思います!

堀木さん
なごみ

擬革紙の復活に深く感謝いたします...!

3. 令和時代における擬革紙の活用方法

擬革紙の復活に成功された堀木さんが代表を務められている参宮ブランド「擬革紙」の会では、財布やコインケース、名刺入れなどを擬革紙で作っています。

ほかにはケーブルを束ねるクリップやブックカバーなど実用的な小物のラインナップもあり、お求めやすい価格で販売されております。

堀木さんお一人で始められた擬革紙作りですが現在、正会員が13名、準会員が5名となり、堀木さんの思いに共感した方や擬革紙を残していきたいという方など、参宮ブランド「擬革紙」の会には、色々な想いをお持ちの方が集まってきています。
 
なごみ

実はわたしも擬革紙の名刺入れを1年前から使っています。
もちろん紙なんですけど、破れや傷みなどもなくてめちゃくちゃお気に入りなんです!

あれからまだ使ってくれてるんですね。
擬革紙は使うほどに馴染んできますよ。

堀木さん
なごみ

たしかに最初は硬かったですけど、使ううちに馴染んで柔らかくなっていきました!

水に濡らさなければ丈夫ですし、大切に使えば長持ちしますね。

堀木さん
なごみ

特に水には気をつけて使っています!
それと名刺交換の時に話題になることもあって助かっていまして笑
「実は紙でできていまして・・・」みたいに話すとつかみはバッチリです笑

それは嬉しい話ですね笑

堀木さん

「ヴィーガンレザー」という新たなる価値観

昨今、話題になっているヴィーガンという動物を大切にするという考え方が広がっていますが、擬革紙はその理念にふさわしい素材です。
動物の皮革を使わずに紙を絞ることで、まるで革のような見た目を作り出す擬革紙は、ヴィーガンレザーとも呼ばれ、
ヴィーガンの方々のおしゃれアイテムとしても注目されています。


また、有名インフルエンサーとコラボすることで、20代~30代の女性を中心とした若い世代からも支持を得ています。
インクアート系インフルエンサー「こあずき。」さんとのコラボでは、参宮ブランド「擬革紙」の会がオリジナルのカードケースを販売し、
大きな話題を呼びました。 オリジナルコラボ商品はこちら

なごみ

新しい時代にあわせて変化しているんですね」!だから若い世代にも支持されているんだ!

擬革紙という紙だけ作っても受け入れてもらえないから、いまの時代に合わせた紙製品を作るようにしています。例えば、擬革紙製の財布とかですね!

堀木さん
なごみ

時代の流れに合わせられなかったことが擬革紙が途絶えてしまった原因でもあるので、その反省を活かして次の世代に受け継ごうとされているのですね!

4. まとめ

 

擬革紙は三重県の伝統工芸品で、まるで革のような見た目と手触りを持つ逸品です。
その歴史は江戸時代にまで遡り、タバコ入れとして大流行した時代もありました。
しかし、明治時代の皮革流通の増加に伴い、一度は途絶えてしまった技術です。
現代では、堀木茂さんを中心とした参宮ブランド「擬革紙」の会の努力により、擬革紙の技術が復活し、
ヴィーガンレザーとしても注目を集めています。
有名インフルエンサーとのコラボレーションや、若い世代へのアプローチを通じて、擬革紙は再び脚光を浴びる存在となりました。
擬革紙の復活は、伝統技術の保存と現代のニーズの融合の象徴とも言えます。
今後も、擬革紙が多くの人々に愛され続けることを期待しています。

なごみ

今日は擬革紙の歴史から復活まで、興味深いお話をありがとうございました!
これから擬革紙をどうしていきたいのか、最後にお聞かせください。

擬革紙を復活させることはできましたが、完成したとは思っていません。さらにいいものを作っていこうとみんなで協力して、取り組んでいる最中です。
将来的には、科学物質を使わない天然染料を使って染めたいと思っていますし、”革の代わり”という模造のようなニュアンスではなく、紙だからこそできる唯一無二のものを作っていきたいという夢があります。

堀木さん
なごみ

素敵な想いがしっかりと伝わってきました!
堀木さん!本日は取材をさせていただき、ありがとうございました!! これからも擬革紙を応援しております!

三重県にある工房では擬革紙を作る体験も行なっております。ぜひ足を運んでいただき、実際に擬革紙に触れていただければ嬉しい限りです!本日はありがとうございました!

堀木さん

擬革紙が欲しいと思ったら

擬革紙は使い込んでいくにつれて素材が手に馴染み、味わい深く変化するのが魅力です。
当サイトのオンラインショップでは、擬革紙を使用したさまざまなアイテムをご用意しています。
伝統と革新が交錯する擬革紙の世界を、ぜひご自身の生活に取り入れてみませんか?