1. ウッドメイク・キタムラ創業の背景
ウッドメイク・キタムラは、三重県紀北町にある職人が丹精込めて作り上げる尾鷲ヒノキを使用した家具屋です。 社長である北村さんは、16歳の頃に校長先生の勧めで厳しい親方のもとに弟子入りし、大工としての技術を学びました。それから約30年にわたり、大工としての経験を積んできました。
しかし、その長い年月の中で、時代の移り変わりと共に、大工が扱う素材が次第に木材からベニヤなどの工業製品へと変わっていくことを実感していたそうです。さらに、間伐された木が放置され、山が荒れていく状況にも心を痛めていました。
こうした背景から、北村さんは平成5年にウッドメイク・キタムラを創業しました。本物の木を使い、その魅力を多くの人に伝えたいという強い思いが、創業の原動力となりました。 また、北村さんは親方から技術だけでなく、社交性も学びました。そのおかげで、今でも良いご縁がたくさんあると笑顔で語ってくれました。
長年大工をされていた北村さんが、その職を離れる大きなきっかけは何だったんですか?
やっぱり、合板に嫌気がさしたんです。本当の木を扱いたかった…
本物の木にこだわるというのは、北村さんにとって大切な信念なんですね。
当時のベニヤなどの合板はホルムアルデヒドが含まれていて、目が痛くなったり、体に悪い影響があったんですよ。それがどうしても耐えられなくなってね。
『ベニヤ 頭痛』で検索してみたら、シックハウス症候群という問題が出てきました。当たり前に過ごしている家や、使っている家具が原因でそんなことが起こるなんて、驚きです。
そうなんです。合板に含まれるホルムアルデヒドは揮発性有機化合物で、微量なら問題ないんですが、一定濃度を超えると体に悪影響を及ぼします。中には、微量でも頭痛やめまいを引き起こす人もいるんですよ。
それで、本物の木にこだわるようになったんですね。北村さんが手がけた内装で、お客さんのアトピーが治ったというエピソードも伺いましたが、すごいですね!
そうなんですよ。アトピーで悩んでいたお客さんの家のベニヤを全部剥がして、尾鷲ヒノキに内装を変えたら、症状が改善されたと聞いて、本当に嬉しかったです。
自分が手掛けた施工で、人の悩みが解決されるって、本当にやりがいがありますね。
ええ、まさにその通りです。お客さんから感謝の言葉をもらうと、これまでやってきたことが報われる気がします。やっぱり、本物の木には特別な力があるんだと、改めて実感しました。
まさに、北村さんが大切にしてきた思いが形になった瞬間ですね。
そうです。これからも、尾鷲ヒノキの魅力をもっと多くの人に伝えていきたいと思っています。
北村さんが長年にわたって培ってきた技術と、本物の木材に対する強いこだわりは、ウッドメイク・キタムラの創業において欠かせない要素でした。 北村さんのご経験と信念が結集し、本物の木の持つ温かみや美しさを多くの人々に届けるため、この家具屋が誕生しました。 その精神は、今でもウッドメイク・キタムラのすべての作品に脈々と受け継がれています。
2. 「尾鷲ヒノキ」へのこだわり
ウッドメイク・キタムラさんでは「尾鷲ヒノキ」を使用しています。この尾鷲ヒノキを使用することには北村さんならではの断固たるこだわりがあるとのこと。
それは「森を守る」こと。
森を守ると聞くと木を加工する側ではなく、木を育て山を整備する林業を思い浮かべる方がほとんどだと思います。私も初めに北村さんからお話を伺った時は、「ウッドメイク・キタムラの他に林業もしているのかな?」とふと思いました。まず、ヒノキは建築材料として使われることが一般的ですが、家具の材料としてメインで使われることは珍しいそうです。
確かにヒノキって家具として使われているイメージがないかも。ヒノキの家具って良い匂いするんだろうな~
でもなんであまり家具で使われることのないヒノキを使おうと考えたのだろう。
話を深く聞いていると北村さんは林業をしているわけでなく、作り手側で森を守ろうとしていました。 木材を扱う業者が良い木を育てようと間伐を行い、間伐された木を山に放置し、山が荒れていきます。この現実に北村さんは、間伐された木に目をつけました。当然間伐された木なのでそれほど太く大きな木ではありませんが、質の悪さには全く問題はなく香りや手触りはヒノキそのもの。
北村さんの扱うヒノキは単なるヒノキではなく速水林業が育てた「尾鷲ヒノキ」で、山を大切に想い日々森を整えながら木を育てる速水林業の間伐された尾鷲ヒノキを北村さんは扱っています。また、速水林業は北村さんが独立したときにとてもお世話になった過去もあるそうです。そのような繋がりの速水林業が、当時かなり難しかったFSC(森林管理協議会)を日本で初めて認証されました。
FSC(森林管理協議会)認証は森・製材・制作の3つの関係性が揃わないと取ることのできない国際的に難関な認証。このFSC認証を速水林業が受ける際の「制作」の役割を担っていたのがウッドメイク・キタムラ、製材は塩崎商店です。 美しい姿の森林をこれからも守り続けたいという3社の思いがひとつになったFSC認証です。
ちなみにウッドメイク・キタムラが作る家具などは全て尾鷲ヒノキは速水林業が育て、塩崎商店で製材されたものです。まさにFSC認証を受けた想いのリレーで繋がれた木材で作られているものとなっています。
また、北村さんは素材そのものを非常に大事にしており、木屑や鉋(かんな)によって削られた薄い木ですら帽子や飾り物にまで新しく変わる。ちなみにこの帽子や飾り物は北村さんの奥様の手作りであり、実際に見てみるととても細かく編まれており興味深いものでした。
そもそも良い木を育てるだけで自然破壊していると意味がないからね。しっかりと良い木を育てるために間伐した木を放置するのではなく使い道や山の環境も整えないと荒れていく一方だからね。
そのような気持ちが両者揃ったからこそのFSC認証。聞けば聞くほど素敵なストーリーです。