三重県明和町の御糸織(みいとおり)。たった1軒が繋ぐ、300年の伝統技術。

なごみ

こんにちは。工芸品アンバサダーのなごみです。
今日は、藍色が美しい「御糸織(みいとおり)」の生産者である西口 裕也(にしぐち ひろや)さんにお話を伺いにきました。よろしくお願いします!

御糸織(みいとおり)を作っている御絲織物株式会社の西口です。よろしくお願いします。

西口さん
なごみ

西口さんの会社は日本で唯一の御糸織(みいとおり)を製造できる会社です。
御糸織への熱い思いをインタビューしてきたので、ぜひ最後までご覧ください!


この記事では、三重県明和町の職人技が光る御糸織(みいとおり)の魅力や情報についてまとめています。

 ・御糸織ってなに?
 ・御糸織の歴史や技術に興味がある
 ・御糸織の現代での利用法を知りたい

生産者の西口さんにインタビューした内容をもとに、このような疑問にお答えします。
前半では御糸織(みいとおり)についての基本情報を、それ以降は生産者の想いや現代での活用法について詳しく掘り下げていきます。

記事の最後には、普段の生活の中で御糸織(みいとおり)を活用できる方法をお伝えしていますので、ぜひ最後までご覧ください。
 

1. 御糸織(みいとおり)とは?

 

御糸織(みいとおり)とは、三重県明和町で作られている三重県指定伝統工芸品の一つに選ばれる綿織物です。
天然藍で染めた糸を使用して作られています。独特な青と白の縞柄が御糸織(みいとおり)の特徴です。
糸の染色方法を工夫することで絶妙な濃淡の違いを表現することができ、異なる糸を使用し織り方を工夫することで、45種類のデザインを作ることができます。
 



御糸織(みいとおり)を製造する唯一の会社


御絲織物(みいとおりもの)株式会社は、1874(明治7)年に創業した現在残っている唯一の御糸織(みいとおり)の製造会社です。
今回インタビューをさせていただいている西口さんが代表取締役を務めておられます。
御絲織物(みいとおりもの)株式会社は、糸を藍染するところから機織り(はたおり)までの工程を一貫して行っている全国でも数少ない会社です。

なごみ

西口さんの会社だけで御糸織(みいとおり)は作られているんですね!御糸織(みいとおり)を作る上で大切にしていることはありますか?

やはり藍染の工程ですかね。いい織物を作るためには、いい染めが必須なんです。

西口さん
なごみ

染めが織物のクオリティを左右するんですね!そんな染めにこだわった御糸織(みいとおり)をもっと深掘りしましょう!

2. 御糸織(みいとおり)の歴史


御糸織(みいとおり)の歴史は三重県の有名な伊勢神宮と、とても関わりが深いです。
古くから御糸織(みいとおり)がある三重県明和町の周辺地域では、絹や麻の紡織が盛んで、伊勢神宮で最も古くから行われている祭典である「神御衣祭(かんみそさい)」に御糸織(みいとおり)を奉納されてきました。
そのような経緯もあり、現在の三重県明和町を中心とした周辺の地域で、江戸時代に紡織業が急激に発展していきました。

なごみ

昔から三重県明和町の地域で紡織が盛んだったんですね!

現在も過去のなごりから、この周辺地域では伊勢神宮に奉納する絹と麻が織られていますよ。

西口さん
なごみ

守るべき伝統がしっかり受け継がれているんですね!

江戸の人口の半分以上に売れた大流行時代


今からおよそ300年前の江戸時代に、松阪から江戸に進出した松阪商人が御糸織(みいとおり)を「松阪もめん」という名で販売し、松阪のブランドを背負ったことで、江戸で大人気となりました。
三井財閥を築いた「三越(越後屋)」の創始者・三井高利や、上野で「松坂屋」を開いた太田利兵衛は、共に江戸で御糸織(御糸織)を松阪もめんとして販売したことをきっかけに大成功。
江戸の人口が100万人と言われていた江戸時代に松阪もめんは、年間50万反(たん)売り上げたという逸話も残っているくらい、当時の江戸ではとても身近なものでした。

なごみ

あの有名な企業も松阪もめんの販売が出発点なんですね!

そうですね。それほど松阪もめんは大人気だったということでしょう。

西口さん
なごみ

御糸織(みいとおり)を松阪もめんというネーミングで売り出した商売センスに脱帽です!

歌舞伎役者が縞柄の着物を着ることを「マツサカを着る」というくらいに松阪もめんが代表的な存在だったんです。

西口さん
なごみ

「マツサカを着る」っておしゃれな言い方です!縞柄と言えば松阪もめん!庶民の共通認識だったんですね!

明治以降に衰退の影が近づく・・・


江戸時代に松阪もめんという名前で江戸で大流行した御糸織(みいとおり)は、主に三重県明和町とお隣の松阪市で生産されており、明治時代の最盛期は1,000社ほどの関わる企業がありました。
粋好みの江戸っ子ファッションとして人気を集めていた御糸織(みいとおり)ですが、明治以降は化学繊維や外国からの輸入品に押されて徐々に衰退。
最盛期に1,000社ほどあった企業は昭和50年ごろに西口さんが経営する御絲織物株式会社だけになりました。

なごみ

御絲織物さんだけが唯一の生産者になってしまったのですね...

昭和40年くらいは、まだ5件くらい会社があったんですけど今はウチだけになってしまいました。

西口さん
なごみ

寂しいというか、責任重大というか...複雑な思いです。

御糸織(みいとおり)と松阪もめんの生産を一軒で背負う責任は大きいものですよ。

西口さん


御糸織(みいとおり)はもちろん、現在松阪もめんとして流通しているものもほとんど、御絲織物株式会社で糸から染めて織られたものです。
御糸織(みいとおり)と松阪もめんの歴史と技術を今に伝える大切な役目を一軒だけで背負っておられます。

3. 脈々と受け継がれる江戸時代からの伝統技術


江戸時代から受け継がれる伝統技術と天然の藍で染めることにこだわり、織りあげる御糸織(みいとおり)は、濃淡を組み合わせた粋な縞柄が特徴です。

なごみ

今回は、実際に御糸織(みいとおり)を作る工場を見学させていただきました!御糸織(みいとおり)を作る実際の工程をご紹介していきます!

糸染め


御糸織(みいとおり)を織るための糸を染める工程です。
藍染の染料「すくも」の貯蔵用プールと糸を染色する専用の機械が設置された部屋が染場です。
ここで木綿の糸を藍染して御糸織(みいとおり)の独特な風合いを出していきます。

なごみ

染場に入ったら瞬間から嗅いだことのありそうな独特な匂いがしますね...!

これは藍が発酵したときの匂いなんですよ。

西口さん
なごみ

なるほど。たしかに発酵食品のような匂いですね!



御糸織(みいとおり)の「命」である藍染の液は、この道40年を超える職人が毎日欠かさずに状態をチェックしています。
元気のない藍染の液は、かき回すと色の戻りが遅いようで、「藍は生きもの」だと言う職人によって、継ぎ足されながら管理されています。
藍染の液が入ったプールは全部で14個あり、それぞれ濃さの違う液で満たされており、染めたい色によって使い分けているのです。

なごみ

「藍は生きもの」だという言葉がありましたね。それほど藍染の液の管理は難しいのですか?

温度を一定の範囲内に保つなど色々な指標があるのですが、最終的には長年の経験で培われた職人の勘に頼っています。

西口さん
なごみ

すごい。。江戸時代から受け継がれる職人さんの伝統の技術なんですね!

そうですね。次は御糸織(みいとおり)を染める工程をご覧ください。

西口さん


糸を染めたい濃さの藍染の液が入ったプールの上に機械を移動させて、染めがスタートです。
 


機械が下降してそのままプールの中に沈んでいき、完全に糸がプールに浸かる状態にします。
 


ここから機械につけられた歯車が回転して、藍染の液で満たされたプールの中で糸が絞られていきます。
ある程度、絞ることができたら機械が上昇してくるので、藍色で染まった糸を見ることができます。
 


この工程をなんどか繰り返していくことで、最初は真っ白だった木綿の糸が御糸織(みいとおり)の特徴的な藍色に染まっていくのです。

なごみ

職人さんの負担を少なくできるように染めて絞る工程は機械化できているんですね!

1995年にこの機械が導入されたんですよ。それまでは職人の手によって絞られていました。

西口さん
なごみ

これを手だけでするのはかなり大変そうですね。。絞るのにもかなり力が要りそうですし...

大変な作業だと思います。今でも「かめのぞき」と呼ばれる1番薄い色の染色は手作業で行っているんですよ。

西口さん
なごみ

そうなんですか!なんでそこも機械化しないんですか?

機械染めより手染めの方が色ムラが少ないんですよ。だから「かめのぞき」は手作業で染めるんです。

西口さん
 

かめのぞき

 
手染めの様子

天日干し


御絲織物(みいとおりもの)株式会社の敷地には大きな中庭があり、染場で染められた糸はこちらで天日干しされます。
天気がよくない日には屋内の干し場で干します。
 

なごみ

取材に伺った日は小雨だったので、屋内の干し場で干されていました!わたし本当に雨女なんです笑

機織り


染場の隣にある織り場と呼ばれる工場の中で、染められた糸から御糸織(みいとおり)を織る工程を見学することができます。
この工場では、昭和前半の豊田式・東洋式などの織機がいまも現役で稼働しており、全部で27台あります。
濃淡の異なる糸の組み合わせを工夫することで、45種類の柄を御糸織(みいとおり)では作ることができます。
 



なごみ

すごい!こんなにたくさんのパターンを作ることができるんですね!

作りたい縞柄ごとに糸の決まった配置があるんですよ。横14個 縦13個に並んだボビンに配置する糸の色によって、様々な縞柄を作り出しているんです。

西口さん



なごみ

そんなにたくさんの配置を覚えるのは大変じゃないですか?

代々伝わっている御糸織(みいとおり)の縞帳(しまちょう)があって、縞柄ごとに糸の色や本数が記載されているんですよ。

西口さん



なごみ

そういった技術も引き継がれてきたのですね!とても歴史を感じます!


江戸時代から伝承されてきた糸染めの職人技と、代々受け継がれてきた縞帳(しまちょう)があるからこそ、御糸織(みいとおり)の豊富な縞柄を作ることができるんです。

※工場見学のご予約はお電話で承っております。 TEL:0596-55-2217 予約必須

4. 令和時代における御糸織の活用方法

御絲織物(みいとおりもの)株式会社が一軒のみで現代まで繋いできた御糸織(みいとおり)の伝統についてみてきました。
令和時代、御糸織(みいとおり)はその独特の風合いと機能性から、アパレル製品や生活雑貨などに幅広く活用されて、日常的に使えるアイテムになっています。
御糸織(みいとおり)としては、シャツや名刺入れなどが生産されております。
さらに又の名である松阪もめんでは、帽子・ネクタイなどの身につけるものや財布やコースターなどの実用的なものまで幅広く展開されております。
 

 
なごみ

御糸織(みいとおり)や松阪もめんを触った感じはサラッとしていますが、通気性は良いんですか?

通気性と吸水性に優れていて、すばやく汗を吸ってくれて、発散するので、蒸れにくいんですよ。

西口さん
なごみ

夏のような湿気でジメジメした季節にピッタリですね!

静電気が発生しにくいから、乾燥しがちな季節でも安心して身に付けることができますよ。

西口さん
なごみ

すごい!冬もいけちゃうんですね!

洗うほど色が鮮やかになって、どんどん素材が手に馴染んでくるのも特徴です。

西口さん
なごみ

使い込むほどに味わいが増すから、長く愛用できるアイテムですね!


御糸織(みいとおり)は、使い込むほどにその魅力が増していく、長く愛用できる伝統工芸品です。
その通気性や吸水性、そして静電気が起きにくい特性から、四季を通じて快適に使用できる点も魅力の一つです。

5. まとめ


今からおよそ300年前の江戸時代に、江戸に進出した松阪商人により広められ、一世を風靡した御糸織(みいとおり)。
そして現在、たった1軒の機屋となった御糸織物株式会社。
古くから受け継がれてきた伝統が、たくさんの人に愛され、さらに発展することを願っています。